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いつか、きっと君を迎えに来る。って内容の手紙。差出人は不明だ。
誰かが私のことを見ていてくれて、私を助けたいと思ってる。
私はずっと待っている。私を救い出してくれる王子様を。
ウィルの梯子を使うことになるのは、思っていたよりずっと早かった。
それは、次の日の夜になってからだった。
こっそり絵を描いてる途中で、絵の具を取り落として、マチルダの奇声を浴びることになった。おかげで、その後は死んだように静かにベッドに入って息を殺すことになった。
私がどんなに忍び足で歩いても、床はきしんで音を立てる。そのたびに、私の心臓は縮みあがる。いつ、マチルダが襲いかかってくるかもわからない。
ここは、私の家のはずなのに……。
涙がじわじわ出てくる。
マチルダは私の話なんて聞いてくれない。頭ごなしに怒鳴るだけ。
もう我慢はできなかった。
あの梯子を使う時が来たのだ。その梯子がくさってようが、きのこが生えてようが、かまわない。この家にいるよりはましだ。
私はほこりをかぶっていたトランクケースを引っぱり出してきた。
そして、朝が来るまでトランクを見つめながら過ごした。
ウィルがその話を聞いたのは昼時だった。
「家を出る?」ウィルがびっくり仰天な顔で聞いてきた。
「そう。もう、ここにはいられない」
荷造りをする手を止めずに、私は言った。
トランクはすでに衣服でぎゅうぎゅう詰めになっている。
「止めないでよ?」
私は挑むように言った。
もう決心は固まっていた。トランクの中身を出すつもりはみじんもない。
「止めないけどさ」ウィルが言った。
「手伝うよ」
その後、ウィルの計らいで、ウィルの二番目のお兄さんの家に行けることになった。お兄さんは何年か前に結婚して、今は奥さんと二人で暮らしているらしい。
ノープランだった私にはとても助かる話だった。
決行はその日の夜にした。
私は音をたてないように慎重に歩いた。すぐ真下は、マチルダの寝室になっている。
床が少しきしんだけれど、相変わらず静かだった。異常なし。
窓に光が当たった。合図だ。私は窓を開けた。
懐中電灯の光を消してウィルが手を振った。
ウィルが出してきたのは例のきのこ付きの梯子だった。
「やっぱり、それ使うの?」
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