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私は不安になりながら言った。太陽の出ている間は強気だったが、夜になると気が変わってきた。きのこの生えた梯子じゃ、使ってる間に壊れてしまうのではないか。
「壊れる前に降りたらいいんだよ」ウィルがなんでもなさそうに言った。
「簡単に言うけどねぇ……」
下を見下ろしながら私が言った。
とりあえず、先に荷物を下ろすことにした。一番軽いものから落としていった。
「それなに?」
二回目に投げおろした荷物を見ていたウィルが言った。
「油絵のセット」
私がいなくなったらマチルダが部屋のものをいじるかもしれない。そんなことは耐えられないからもっていくことにした。なんていったってお父さんのものでもあるわけだから。
恐る恐る足を初めの段にのばした。
片足の体重をかけたところで、ばきばきと嫌な音がした。
「落ちる! 絶対に落ちるよ、これ!」
「だいじょうぶだって。下で支えてるからさっ」ウィルが緊張感に欠ける声で言った。
そういう問題じゃない。いくら支えても梯子自体がもろいんじゃ意味がない。
「いいから、一歩一歩、足を出して。ダメだと思ったら飛び降りるんだ」
ウィルはわかってない。自分がどれほど過酷なことを私にやらせようとしているのか。
こんなの、命綱なしで綱渡りしているのと変わらない。
「さあ、勇気をだして!」ウィルが言った。
……仕方がない。
短く息を吸うと、私は梯子をつかむ手に力をこめながら降りて行った。
あと三段くらいってところで、ばきっと不吉な音がした。完璧に足場が折れてしまっていた。
もう、足をかけるところがない。
「いい、いい、早く飛んで!」ウィルが叫んでいる。
私は飛んだ。そのまま、植木に突っ込んだ。
立ち上がると、足や顔がぴりぴり痛い。それでも、なんとかウィルが受け止めてくれたから、擦り傷くらいで済んだのかもしれない。
「だいじょうぶだった?」ウィルが聞いた。
「うん、助かった」
「……まだ、そうでもないんじゃないかな?」
ウィルが指差したそこには、ふろしき包みがひとつ窓から見えた。
荷物をひとつだけ下ろし忘れていたのだ。
降りるときに持ってこようと思ってて、梯子に気を取られ過ぎて置いてきてしまったのだ。
結局ふろしきは、あきらめることにした。
あれには、電車の中で読もうと思ってた小説や伝記が入っていた。でも、下着や洋服じゃないだけよかった。
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