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ウィルは私の油絵セットを持ってくれた。
私たちは街道に出た。辺りはまだ薄暗く、街灯がついている。車の通りも少なくてとても静かだった。
こんな時間に外にいるなんて初めてだ。
「どこに行くの?」なんだかわくわくしながら私が聞いた。
「ポール駅から始発の電車が出てるんだ。予定より出てくるのに時間食ったな」
光る蛍光の文字盤の時計を見てウィルが言った。
「…よし、急ごう」
朝日が昇る前に電車に乗ったのは初めてだった。薄暗い空をゆっくり差してくる赤い光を見て私は感動した。
電車に乗って一時間後、私たちはあくびをしながら、畑のある小道を歩いていた。
「兄貴の家、すげぇんだぞ。城みたいなんだ」
ウィルはそう言っていた。
「ふーん」
聞き流していたけれど、実際すごかった。
しばらくすると、くねくねした道の先に白いものが見えた。大きな建物のようだった。
「あれは?」
小さなテーマパークでもあるのかと思って私がきいた。
「ああ、あそこが兄貴の家」
「…うそでしょ?」
あんな広い家にこれから泊れるだなんて信じられない。
「ウィルのお兄さん、王子だったりする?」
「そうだな。記憶にはないけど、兄貴が王子ならおれも城に住まなきゃならなくなるかな」
ウィルがいって私は噴出した。
ウィルのお兄さんは王子ではなかった。
どちらかというと、森のきこりだった。お兄さんを初めて見た時にお兄さんがくわを持っていたせいだ。そのくわが初め斧に見えて、それがきこりのイメージになってしまった。
お兄さんは、庭のひろい畑で作物をたくさん作っているらしい。
家の中は、太陽の光がとてもよく入る構造になっていて、とても明るかった。窓がたくさん開いていて、心地よい風がはいってきていた。
白いベランダから見える眺めは最高だった。遠くに海は見えるし、列車が走ってるのも見える。そして、黄色い花畑が見えた。
「あそこに見えるのひまわりだよね?」
私がきくと、案内してくれたお兄さんが答えた。
「そうだよ。あそこ、大きな公園があって毎年ひまわりが咲いてるんだ」
「ひまわり、好きなの?」ウィルが私に聞いた。
「うん……お父さんが好きな花なの」
ウィルのお兄さんとその奥さんのマリーさんはとても優しい人だった。
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