ヘタから始める合唱曲

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「せんぱい、どうしてあんなことしてくれたんですか?」 「どうしてって……ま、お前たちが頑張ってるの知ってたしな」典人せんぱいは首筋をぽりぽりとかいた。  「直人はフツーに平気だろって思ってたから」  この言葉を聞いた私は、生命の神秘を感じた。  双子の成せる技なのかな。  遠くにいてもお互いのことがわかるのかもしれない。  そのとき、私は誰かに呼ばれた。見ると、直人せんぱいがやって来るところだった。 「典人、さっきはありがとな」  直人せんぱいが典人せんぱいの肩を軽く叩いた。 「何のことだよ」  典人せんぱいはしらばっくれている。 「あ、そーだ、直人。お前が生きて帰ってきたら、この前、練習の時に笑ってた理由を聞こうと思ってたんだ」 「へ? ああ、そのことね……」  ちらっと直人せんぱいが私を見る。  本当のことを言ったら、絶対に典人せんぱいは気にいらないに決まってる。  私は、理由をつくろうと口を開いた。  そうしたら、タイミングを見計らっていたかのように、 「あー、そのことなら知ってるよー。典人って直人の弾いた曲ならなんでも大好きなんだってねー」  答えたのは、ちょうど通りがかった(らしい)宇川せんぱい。  その場に通りがかった生徒の誰もの目が点になったと思う。  宇川せんぱいの声は学校中に聞こえそうなほど大きく響いたから。だって、合唱部で一番声が通るソプラノの歌い手だから。  そして、くるりと典人せんぱいが私の方を向いた。 「お、おまっ」  驚きすぎて、舌が絡まってる声だ。 「バラしたなーっ!!?」 「でも、私じゃないですって!」  これは事実。宇川せんぱいには話してないし。  さしずめ、直人せんぱいが話したんだろうな。  ……とか、考えているひまもなく、顔を真っ赤にした典人せんぱいが追いかけてきた。  ちょっと本気でこわい。 「な、直人せんぱいっ」  助けを求めた直人せんぱいは「二人とも仲がいいな~」とか言って笑ってる。  そうじゃなくて、私の無実をはらしてほしいんですけど!  宇川せんぱいは、というと、「行ってらー。今日の打ち上げまでには戻ってきてね」とか手を振ってる。 「そりゃいいな。時間はたっぷりあるし、お前だけに特別リサイタルをひらいてやるよ」  典人せんぱいがにんまり笑った。  その言葉、直人せんぱいだったら舞い上がってたと思うけど、典人せんぱいじゃあ……。 「け、けっこうですっ!」
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