ヘタから始める合唱曲

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 言いにくそうにせんぱいは言った。 「典人の音楽嫌いはぼくが原因なんだ」  それは初耳だった。宇川せんぱいからも聞いてない。  思わず耳のセンサーが反応したみたいに集中する。  直人せんぱいは簡単に典人せんぱいのトラウマについて話してくれた。    始まりは小学校に通うより前だったらしい。瀬能せんぱいは典人せんぱいといっしょに音楽教室に通うことになった。  その初めてのレッスンの日、一人ずつ歌をうたって合唱することに。それで、典人せんぱいの番がきた……のだけど、それはそれはオンチで周りにいた子たちはあまりのひどさにわんわん泣きだした。典人せんぱいは持っていた楽譜を先生の顔にぶん投げて、初日で音楽教室を止めることになったとか。  また、中学のときには、昨日のように瀬能せんぱいと間違えられて合唱部に連れてこられたこともあったらしい。そのときは、昨日よりもっと悲惨で、ヤケクソで歌った典人せんぱいのせいで、部活崩壊の危機にまでなったのだとか。  それ以来、音楽嫌いに拍車がかかったと瀬能せんぱいは教えてくれた。 「典人の音楽嫌いを直してあげられないかなーって思ってるんだけど、なかなかね」  せんぱいは苦笑した。その困って笑う顔を見ていると、私は無性にせんぱいのために何かがしたくなった。そして、一秒後には言っていた。 「やりましょう、せんぱいっ!」  言いながら急に立ちあがったので、瀬能せんぱいは驚いて私を見上げている。 「典人さんに歓迎会に出てもらうっていうのはどうですか? 一緒に合唱の練習をするんです。そうすれば、音楽に触れてるうちに楽しくなれますよ!」 「ええっ? ……それは良いアイデアだけど…典人が承諾してくれるとは思えないなぁ」  実は、私もそう思っていた。典人せんぱいが快く歓迎会に出てくれるとは思えない。 「いや、でももしかしたらいい手があるかもしれない。川口先生に相談してみるよ」  川口先生は合唱部の顧問だ。  だけど、どんな方法だろう。  うまくいったら合唱部の練習に連れて行けるかもしれないってせんぱいは言ってた。  そして、その理由が分かったのはこの日の放課後だった。  休み時間になった。  私は隣のクラスに借りた教科書を返しに行ったところだった。  そのとき、廊下で瀬能せんぱいを見つけて追いかけた。 「瀬能せんぱい?」けっこうかわいい声で呼んだつもりだ。 「あ? 呼んだか?」
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