9339人が本棚に入れています
本棚に追加
一瞬で、その声がした方向へと顔を向ける。
ここには他に誰も居ないと思っていたから、私は驚いてしまった。
少し離れた暗がりの中から近付く影は、挑戦的な強い眼差しで斗真さんを真っ直ぐに見据えている。
私はその姿を見て、口から魂が抜け出そうになった。
「東條…」
横で呟く斗真さんも、目を大きく見開き驚きを隠せずにいた。
「…課長の知りたかった事、俺が話しますよ。」
すぐ側まで来た東條さんは、ベンチに座る私達を見下ろし…というより斗真さんだけを視界に入れて言った。
私なんか、まるで存在してないかのような扱いが、余計に心臓に悪い。
最初は驚いていた斗真さんも、しだいに顔の表情が引き締まり、いつもの優しい瞳に力が込められた。
そして、音もなく立ち上がると、東條さんと同じ目線でびっくりするぐらいの低い声を出す。
「お前…、喧嘩売ってんの?」
静かに怒りをぶつける斗真さんに対して、視線を逸らすことなく、いつものクールな態度のままでいる東條さん。
「まさか。
そんなつもりは全くないですよ。」
私は、そんな2人に声を掛けれずに、パニクりながらも目を外せなかった。
少し間を置いてから、
口元に笑みをたたえた東條さんは、付け加えるように言い放つ。
「でも、
奪える隙があれば、川崎を奪うつもりではいますけどね…」
この瞬間、私の魂は空へと消えて行ってしまった…
最初のコメントを投稿しよう!