光の向こうへ

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「貴人様!!」 夕暮れの光を背景に、駆け寄ってくる元気な少女の姿。 「天后。どうしたんです?」 そう訊いたのは、今の時間彼女は青龍の元で勉強に励んでいる筈だったからだ。 しかし、問うた瞬間に天后が浮かべた今にも泣き出しそうな表情で、おおよその状況は理解した。 青龍は天后には少し厳しい処がある。それは勿論、青龍が天后を気にかけているから、ではあるのだが。 まだ年若い彼女に、数千年生きた青龍の真意を汲み取れと言うのはどう考えても無理だろう。 何かを言いたくて、けれどどう言えばいいのかとやっぱり泣き出しそうになっている天后に、貴人は柔らかく微笑んだ。 「天后」 「……はい」 「戻りましょうか」 「…………」 返事はない。したくとも出来ない、ということだろう。 口論があったのか、それとも一方的にかは解らないが、天后が青龍から逃げ出してきたのはきっと事実。 そして天后は、後悔している。 反省している。 けれども青龍に怒られるのが――というよりは多分、幻滅されるのが怖くて、簡単には戻れない。 それで多分、貴人の姿を探して書庫まで来たのだろう。 ただそれは、貴人に取り成してもらいたいという思いゆえではなく、ただ、青龍に素直に謝る為に、貴人に会いに来たということだろうと思う。 謝る為の勇気を、先に貴人に会うことで、作るのだ。 なんとも複雑で、しかし愛らしいと思う。 年頃の少女らしいそんな様子は、ひどく微笑ましい。 「天后」 「はい」 「一緒に戻りましょう。……どうやら心配して探しに来た人も居るようですし」 「え?」 貴人の言葉に、天后が不思議そうに瞬く。 しかし次の瞬間慌てて振り返り、 「……青龍様?!」 物凄い仏頂面でこちらを見ている青龍の姿に驚きの声を上げた。 青龍はむっとした表情を崩すことなくゆっくりと近付いて来る。天后は緊張の面持ちでそれをじっと待っている。 ……貴人からしてみれば、青龍の仏頂面は心配が過ぎたが為のものと解るし、自分にも非があると認めたがゆえのものだとも解るのだが、それは長い長い、気の遠くなる程長い付き合いの果てに理解出来るようになったものなので。 やはり、天后にはそれはまだ解らないだろう。
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