第一章 ~ 『暗溝の先に待つもの』

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 二回の後に三回、それは独特のノックの仕方だった。  病室の引戸がすっと開く。 「西川さん、具合はどうですか」聞き慣れた女性の声はそう言った 「変わりないですよ」   聞こえていた乾いた足音が隣でピタリと止まった。 「そうですか」  相づちを打つと女性はにっこりと笑顔を向ける。  しかし実際のところ笑っているかすら分からない。  私は今まで一度もその顔を見た事がないのだから。  
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