19人が本棚に入れています
本棚に追加
長野県北アルプス。
3000m近い山々が連ねる日本アルプスの一つ。
その登山ルートの一つである裏銀座。
高瀬ダムから烏帽子小屋、鷲羽岳、双六、椛沢、そして槍ヶ岳へと歩く人気の登山ルート。
その椛沢岳と槍ヶ岳の間の鎖場に、杉村水樹はいた。
「今日で三年だな」
線香を起き、呟いた。
三年前、彼の友人はここから滑落した。
激しい雨の日だった。
三年たった今でも遺体は見つからない。
動物に食べられたか、自然に還ったか。
線香が燃え尽きた事を確認すると、彼は立ち上がった。
「また来年も来るよ」
そう行って、重いザックを背負うと、槍ヶ岳へ向けて歩き始めた。
天気は下り坂。雨と風が強くなってきている。
はやく貼場にたどり着かなくてはならない。
しかし、槍ヶ岳まであと一時間という地点で、雨も風もあり得ないくらい強くなった。
雷まで鳴っている。
これでは一歩も動けない。
地面にへばり付いて、やり過ごすしかない。
だがへばり付いて三十分。
ひときは大きな雷が近くに落ちた。
地面からビリビリと電気が伝わってくるのが微かに感じられる。
そして振動。
ふと上を見ると、落石が落ちてくる。
直撃コースだ。
このままでは不味い。
「ラーク!!」
大声でそう叫び、立ち上がった。
ちょうどその時、突風が彼をよろめかせた。
バランスを崩し、その場に四つん這いになってしまう。
不味い。
なんとか立ち上がった時には、落石は彼のすぐそこまで落ちてきていた。
もう逃げられない。
彼の記憶はそこで途絶えた。
最初のコメントを投稿しよう!