滑落

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長野県北アルプス。 3000m近い山々が連ねる日本アルプスの一つ。 その登山ルートの一つである裏銀座。 高瀬ダムから烏帽子小屋、鷲羽岳、双六、椛沢、そして槍ヶ岳へと歩く人気の登山ルート。 その椛沢岳と槍ヶ岳の間の鎖場に、杉村水樹はいた。 「今日で三年だな」 線香を起き、呟いた。 三年前、彼の友人はここから滑落した。 激しい雨の日だった。 三年たった今でも遺体は見つからない。 動物に食べられたか、自然に還ったか。 線香が燃え尽きた事を確認すると、彼は立ち上がった。 「また来年も来るよ」 そう行って、重いザックを背負うと、槍ヶ岳へ向けて歩き始めた。 天気は下り坂。雨と風が強くなってきている。 はやく貼場にたどり着かなくてはならない。 しかし、槍ヶ岳まであと一時間という地点で、雨も風もあり得ないくらい強くなった。 雷まで鳴っている。 これでは一歩も動けない。 地面にへばり付いて、やり過ごすしかない。 だがへばり付いて三十分。 ひときは大きな雷が近くに落ちた。 地面からビリビリと電気が伝わってくるのが微かに感じられる。 そして振動。 ふと上を見ると、落石が落ちてくる。 直撃コースだ。 このままでは不味い。 「ラーク!!」 大声でそう叫び、立ち上がった。 ちょうどその時、突風が彼をよろめかせた。 バランスを崩し、その場に四つん這いになってしまう。 不味い。 なんとか立ち上がった時には、落石は彼のすぐそこまで落ちてきていた。 もう逃げられない。 彼の記憶はそこで途絶えた。
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