祝福は厳かに~約束と始まり~

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鮮やかなステンドグラスから陽射しが降り注ぎ、この場所をさらに神秘的にみせる。 大理石の敷き詰められたきらびやかな床に、真っ赤な絨毯。 まるでこれから先に広がる未来のように、真っすぐ伸びている。 その絨毯の終着駅―――少々高くなっている祭壇の前で、俺は静かに目を閉じていた。 そうすると、この10年の歳月が走馬灯のように蘇る。 汗をかきながら無言で魔具を創った、あの工房。 巨大な魔物の討伐依頼以上に困難な、ギルドで山のようになっている事務作業。 昔の自分を見ているような、愚直な弟子。 そして――― 「ったく……まともな思い出もねぇ。」 そう呟いた瞬間、絨毯の向こうにある扉がゆっくりと開いた。 その先にいたのは、まさに純白。 生涯忠誠を誓う鷹夜に手を引かれ、美しく輝く彼女が近付いてくる。 賛美歌も司祭もいない、たった3人だけの結婚式。 明かりも差し込む柔らかな太陽光だけで、少々寂しい式かもしれない。 それでもまず最初に、新しい未来はこの3人で迎えたかった。 これは俺だけでなく、嫁―――ナディアの意見でもある。 「フッ……馬子にも衣装か?」 隣にきた彼女の手を鷹夜から譲り受け、俺は小さく笑う。 すると彼女も緩く口角を上げ、俺の瞳を真っすぐ射抜く。 「その言葉、そっくりそのまま返す。」 「フッ……」 互いに互いらしい言葉にまた笑みを零しながら、揃って鷹夜に視線を向ける。 そこにいた彼は慈愛に満ちた瞳をしながら、ただ無言で笑っていた。 何の言葉もないが、司祭の言葉以上に伝わるものがある。 名実共に国を仕切る俺たちの我が儘―――まずは俺たちだけの式をしたい―――を、迷うことなく了承した彼。 この後に待ち受けるお披露目などには今から辟易するが、嫌な気はしない。 俺は再び彼女に視線を戻し、彼女の左薬指に唇を落とす。 そして顔を上げ、ゆっくりと唇を合わせた。 「お二人の幸せが、未来永劫続きますように。」 鷹夜の祈りの言葉と同時に、古ぼけた教会の鐘の音が祝福に鳴いたのだった。 .
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