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「生前の悪行が酷い……地獄行きだ。」
そう言って、縁寿は掌以上の大きさもあるハンコを書類に押す。
するとその瞬間、書類は黒い炎に包まれて消えた。
「閻魔王、こちらはどうしますか?」
縁寿が肩がこったというジェスチャーをするが、それを華麗に無視しながら亢竜は新たな書類の山を築く。
「ただでさえ仕事が滞っているのですから、馬車馬のように働いて下さい。」
「うっ、馬……」
仮にも一国一城の主に向かって、馬扱い。
縁寿は何とも複雑な気持ちを吐き出すようにため息をつき、雪崩をおこさないよう気をつけながら書類に手を向ける。
しかしその手が書類を掴む前に、横から別の手が奪っていった。
それと同時に響く、やけに懐かしいあの声音。
「何ですか、この量は。」
「…………」
「ほう……無視とは、いい度胸ですね。」
何やら恐ろしいことを言われているが、それすら耳に入ってこない。
縁寿も亢竜も動きを止め、ただ驚愕に目を見開いていた。
そんな2人に向かって、書類を持ったまま片眉を跳ね上げるアゲハ。
「何ですか、2人揃ってその馬鹿面は。
喧嘩売っていると、勝手に解釈……」
「「アッ、アゲハッ?!」」
彼の言葉を途中で遮り、揃ってアゲハに抱き着く。
しかし自身よりもでかい者に抱き着かれて耐えられるわけがなく、アゲハはまんまと押し倒されてしまった。
それでも、2人が離れることはない。
「「本物だ……」」
存在を確かめるようにペタペタ触ったかと思えば、ゴロゴロ懐く大人。
かなりシュールな現状が繰り広げられる中、どこかで何かがプチッと切れた音が聞こえた気がした。
「この馬鹿息子どもが……とりあえず、重い。」
そう言いながらも、軽々と2人を投げ飛ばすアゲハ。
そして2人の末路など気にすることなく立ち上がり、怖いほど寒々しい笑みを浮かべた。
その笑みを見た瞬間、あれ程近付いていたくせに、2人は震えながら距離をとろうとする。
しかしそんな2人の首根っこを素早く掴み、アゲハはさらに笑みを深くした。
「久しぶりですが、遊んであげましょう。」
その後、閻魔城から常人とは思えぬ断末魔が響いたとか。
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