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「帰り、大丈夫ですか?」
俊は、老夫婦が心配になって訊ねた。
「どうにも、こうにも、秋の行楽に珍しく遠出をしたら、道に迷っちまって、一体ここが何処だかも、さっぱり分からねえんだあ、これが」
半端な親切なら親切ではないよなあ、と俊は腹をくくるつもりになった。
「それじゃあ、僕のカーナビで御宅まで送りますから、住所か電話を教えてください」
言うなり携帯でユミに電話をかけ、いま起きた一部始終をかいつまんで説明した。
「んで、二人を送ってくるから、すこし帰りが遅くなるよ。」
「おっけ」
ユミは、かるく気落ちしたような声だ。
老夫婦の軽乗用車は、左前輪が泥まみれになったけれど、どこにも故障はなかったし、幸い老夫婦に怪我もなかった。
俊はカーナビに彼らの電話番号を入力し、行き先を確かめた。さほど遠くはなさそうだが、まるで知らない地域だ。
「じゃあ、お宅まで、僕の後をついて来てね。」
「すんません、すんません」
老人は、ハンドルに頭をぶっつけそうにして、何度も礼を言っている。
「気にしないでいいっすよ」
空腹ではあったが、老夫婦を送り届けたあとには、ユミの手料理が待っている。
その前に、風呂もビールもある。
俊は、そんな空想で自分を励ましながら、発進していった。
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