「白い鼻」 リュース・匙田 作

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 カーナビの青い指示ラインは、俊の車をS村の方へと、案内してゆく。  「へえ、こんな所があるんだ。初めて来た。」  独り言が、思わずもれた。  やがて、県道から右へ大きくカーブを切り、村道へ入る。  もう、外は真っ暗だ。街灯は一切ないし、対向車もないからロング・ライトを点けないと危険だ。  「あの人たちのように、田んぼに突っ込んだらアキマヘンデー!」  下手な漫才のくちマネをして見ても、一人きりでは面白くも何ともない。    バックミラーをみると、老夫婦の車は五メートルほど後から、しっかり従いてくる。  カーステレオをオンにしたら、低音の外人パーソナリテイーの声が聞こえて来た。  村道から、更に枝道へ入る。すると、急に道幅が狭く、しかも傾斜になった。  「おっと、急坂だ。丘かな、何と・・・山の中?ここを入って行くの?」  そこは丘ではなく、どうやら山道だ。切通しになっている。  ナビの矢印は、この先に待ち受けるくねくねとしたヘアピンカーブの連続を指し示している。  「マジかよお」  俊は、想像以上に道を知らない自分に腹立たしくもあり、軽く引き受けてしまったこのミッションの重さに、早くも後悔し始めていた。    すっかり夜が訪れている。  気がつくと、もう切り通しの道は終わり、雑草がタイヤにからまる細いケモノ道のような所を、踏み分けながら走っている。  カーナビの画像をみると、ゴール地点を表す「Gマーク」が、すぐそこに迫っている。  「さ、もう少しだ」  バシャっと水音がした。魚がはねたのか。  「へ?水辺なのか?」
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