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「ミズホ先輩~」
朝の更衣室で掛けられた、すがり付くような猫なで声に、私はブラウスのボタンを留めつつ振り返った。
「朝から辛気臭い声出してどうしたの?」
声の主であるショートボブの彼女は、制服のスカートを私の目の前に拡げる。
「もう最近食べ放題にはまってて、これ、ホックが……先輩、ソーイングセットなんて持ってませんよね?」
三年後輩の新谷雪菜(しんたに ゆきな)、通称、新谷ちゃんは、外れかかったスカートのホックを指差してヘラリと笑った。
スカート……私もちょっとヤバイかも。
彼女の言葉に自らのお腹をチラリと確認し、ウエスト部分に若干乗りかけた肉を凹ますように力を入れた。
「針と糸なら机の中だけど……」
上目遣いで此方を見る彼女に対する一抹の不安から、語尾が曖昧に掠れた。
「流石!じゃあ先輩お願いしまーす」
やっぱり……。
猫なで声+上目遣いの最強コンボは、男でなくてもノックアウトされると思う。
しかも、彼女は高卒二年目のピチピチ二十歳娘。
最強コンボに若さが加われば、もう神だ。
気付けば私は、彼女のスカートを手に自分の席に座っていた。
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