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私がこの家に住む前の話をしよう。
私がまだ小さく可愛らしい子猫であり、まだ野良猫だったときのことである。
……回想……
私は茂みの中で息を潜め、じっとしていた。
私が初めて人間という生き物を見て感じたのは恐怖である。
否、人間だけではない。私は全てのものに恐怖していた。
生まれてすぐ母には捨てられ、よくわからないままこの世の中を生きてきた。
住処を他の猫に盗られたり、犬に追いかけ回されたりした。
そうしていくなかで私は自分しか信じることが出来なくなっていた。
茂みから人間の様子を確かめようと顔を出すとうっかり見つかってしまった。
迂闊だった。
私は必死で逃げてなんとか撒くことができた。
私はほっと息をついた。
少し休もう…。
最近、ずっと気を張っている。
しかし、そう休むことはできなかった。
私は人間から逃げることに必死になるあまり犬の縄張りに入ってしまったようだ。
今度は犬との追いかけっこが始まった。
もう限界だった。
ついさっき、人間を撒いたばかりである。
私は物陰に隠れて、気配を消すことに全神経を集中した。
…犬の足音が聞こえる。
その足音が私が潜んでいる物陰のすぐ近くで止まった。
もう駄目か…。
私がそう思ったとき…
「わぁ、猫ちゃんだ~。」
声が聞こえた。
人間である。
犬は人間を見て逃げていった。
「ねぇねぇ、ママ、この猫飼っていい?」
「ちゃんと世話する?」
「うん!」
私は抵抗する気力もなく、抱かれるままだった。
…このとき、出会ったのが今の家の人間達である。
まさか、犬が彼らの家にもいるとは夢にも思っていないのだが…。
私は人間達のおかげで助かったのであろう。
だから、少し程度なら礼を言ってもいい。
…ありがとう。
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