12話

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─夏期球技大会当日。 体育館を2つとグラウンド1つを使い、バレー・バスケ・サッカーを行い順位をつけるというこの行事は、保護者や生徒の一部に一般的過ぎやしないかと言われながらも長く続く伝統的なものだ。 寧ろ、楽しみにしている生徒はとことん楽しみにしている行事とも言える。 そんなこんなで、親達の友好関係の手助けや、友情を育むこと、運動することや、本気で勝つことなど、それぞれがそれぞれの目的を果たすために体操服に腕を通していた。 「雪羽ちゃーん、ちゃんとタオル持ったー?」 「持った」 「雪羽、何の競技でるか…分かってるな?」 「バスケ…っていうか俺も子供じゃないんだから大丈夫だっつの」 「そやかて心配やん。雪羽ちゃんしっかりしとってイー子やけど、たまーにものっそお馬鹿やるんやもん」 「…確かに」 「は?お前ら喧嘩売ってんのか!! …ったく、いっそ泣きてーよ…」 「えっ、ちょ…雪羽ちゃん!雪羽ちゃんっ、自分ここで着替える気でおるんか!?」 「は?なんか悪ぃのかよ」 そう言いながら、雪羽はネクタイを解きシャツの前をはだけさせる。 所々にある痣や包帯なんかが目に付くが、それを差し引いても十分に見る価値はあるのだろう。 クラスメートの中には自分の着替えや行動を一時停止させてまで雪羽の動きから、晒されてゆく肌から目を離すまいとしていた。 「…なに?」 ぴたり、 雪羽は片腕を袖から抜いたまま、動作を止めて視線の方を睨む。 欲望の満ちた目は雪羽にとって、警戒するに値したらしい。 威嚇するように、唇を引き結んでいた。 しかし問題は、服を途中まで脱いだままという、周りにとっては好都合すぎる格好で睨んでいるということだ。 (あかん…、全くもって逆効果や…) (普通、そこで馬鹿っぷり…発揮するか…?) そう心の中で頭を抱えている2人も、雪羽から視線を外さない。 この2人がこのようなら、もう誰に何を言っても無駄であるといち早く判断した雪羽は、何も言わず黙々と着替え始めた。 「…よし、じゃあ俺先行ってるから」 「え!?あ!ちょ、待って! 俺あと下だけやからっ!すぐ終わるから!」 「そうだな…雪羽、先行こう」 「待てやコラ空牙ァッ! 自分1人抜け駆けすっ気かボケ!…あ、よっしゃ着れた」 半袖シャツの襟からなんとかして頭を出した竜は、先に行く2人を全力で追い掛けた。 .
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