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ダンッ、ダンッ…
「う、わ…」
途中廊下で新羅が、追い付いてきた竜眞と言い争いをし始めたので一人で体育館に入った瞬間、雪羽は一瞬だけ顔を歪ませた。
それは、公式ボールの跳ねる音や、バッシュが床を擦る音、練習中シュートが入った時の声援の所為では決してない。
どちらかと言えばそれは雪羽にとって面白くなりそう!という興奮材料に含まれるし、それが行き過ぎていたとしても顔を歪ませる程ではないからだ。
なら、何故雪羽が顔を歪ませたのか。
どんっ!
「わっ、」
「!うわっ、ごめん!痛かったよな!?俺、前しか見てなくて、本当ごめん!」
「…あー…、うん、ヘーキ。気にしねぇで」
「本当か?でも…、」
「いーから早く練習しろよ。初め当たんの俺らだぞ」
「!?マジで!如月とっ!?
うわ、すげぇ感動!」
「はいはい、感動も振動もいいから練習行けって」
「うっス、じゃあ試合でな!」
そして名前も知らない爽やか君が同じクラスの方へと走っていった。
そちらではバスケ部がするような本格的な練習を行っている。
クラス対抗のこの行事は、体育祭と同じくらい生徒にとって大事なものだ。
優勝したチームのクラスは競技別で特典が与えられる。
今年は、サッカーの優勝クラスは修学旅行先の決定権、バスケなら1ヶ月間の学食優先権、バレーなら次の行事が有利になること。
毎年対象スポーツが変わったり、特典内容が変わったりするのだが、それは欲しい特典の為に行う計画力を養うためでもあるらしい。
少なからずそれは今後の役に立つに違いないし、モチベーションのアップにも繋がる。
何より文武両道は、海外でビジネスする者にとっては特に利点になるだろう。
そこまで考えて、体育館の中を眺めていた雪羽は心底うんざりしたように呟いた。
「つうか前見てて俺が見えねぇって…お前等どんだけデケぇんだよ」
そう、雪羽が顔を歪めた原因は、体育館が自分よりもずっと高い奴等で満ちていたからだった。
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