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だが、そこで反論するのは、やはり雪羽である。
「でも、着るモンなんてねぇじゃん!」
「小さいサイズがねぇのも確認済みだし!」
「それに、汗かいたり、動いたりすんだから袖があるのを下に着たりする方が不利だろっ」
しかも皆の意見に1つ1つ答えてゆくという徹底ぶりだ。
挙げ句、的も射ているものだから、流石というより最早、質が悪かった。
(…でも、流石か…。あんな会長といりゃあ多少賢くも……ん?)
そこで新羅はふと気付く。
「雪羽、会長は?」
「薫?」
「ん、…だって会長なら、お前のその格好…黙ってない」
「そうや!絶対黙っとらん!
怒られとうなかったら…「来ねぇよ」…えっ?」
「だから、来ねぇって。
俺、薫にお薦めしたし、サッカーを」
「「「サッカー?」」」
「うん。薫、サッカー好きだし。
つうか俺、修学旅行どこ行こうがどうでもいいんだよね」
「「「は?」」」
「薫がバスケ来たら、勝てる気しねぇもん。
お前等、竜と新羅は別として、アイツに本気で当たりたくなんかねぇだろ?」
だーかーら…、と雪羽は言いながらシューズの紐をしっかりと結び、立ち上がった。
「薫は来ねぇように手回ししたんだ!
だから本気出せるし、万々歳!
っつーワケで、頑張るぞっ!」
「「「おうっ!!」」」
「おう…」
ユニフォームのことをすっかり忘れたチームメイトが立ち上がる。
若干納得いかなそうに新羅も立ち上がり、そして小さく溜息をついた。
(…なんか不安が事の端々あるカップルだよな…。
普通は離したくねぇだろ、お互いすげぇ人気なんだからさ…)
油断していると寝取られてしまうかもしれない。
薫には親衛隊という、最早宗教じみた団体がいて、雪羽の人当たりの良さや性格がかなりまわりにうけている。
まして世の中には薬も、金も、脅しもあるのだから。
「・・・。」
しかしそこまで考えて、新羅は考えることをやめた。
(ま、会長は兎も角、雪羽には俺たちがいるか…)
「今は…センターに徹するのが策かな。
勝てたら…雪羽、喜ぶし」
軽く背伸びをして、足首を回す。
試合5分前を知らせにきた体育委員の生徒の後に付いていく雪羽達の背中を追った。
正直、周りに埋もれて雪羽の背中は見えなかったが。
(やっぱ雪羽って小せぇ…。
言ったら怒るだろーけど)
ボールの跳ねる音が近づく。
夏期球技大会が今、始まった──。
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