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その部屋には縦二十五メートル、横十メートル、深さが三十メートルもあるプールがあった。
ケイミーはプールサイドに備えられたフルフェイスのマスクを被ると、
オブジェクトに乗るためのスーツのままプールの中に飛び込んだ。
実はこのスーツ、水着のようなスーツは撥水性に優れており、
防弾チョッキにもなる胸部の鎧部分は自動的に適温に調節してくれる。
さらに腰のスカートのようなものは戦闘機のパイロットのスーツにもある、『下半身の血流を止めることで脳の血液不足を防ぐ』機能までついているのだ。
まさに陸海空全てを兼ね備えた万能スーツというわけだ。
レイヴンはケイミーがプールに飛び込んだのを見たあと、彼女が付けたフルフェイスのマスクのチューブと繋がる比較的大きな機材に歩み寄ると、
キーボードを叩き、さらにいくつかのボタンを押していく。
それを終えると、次に機材に繋がったヘッドホンをつけてマスクに向かって話しかける。
「あー、あー、聞こえるか?」
『だいじょうぶ、聞こえてるよ。
あと、さんそきょうきゅうもばっちり』
彼の言葉に対応するように、水中にいるケイミーの声がヘッドホンから流れてくる。
「『調整』はいつものメニューでいくぞ。
何かあったらすぐに言え」
うん、と無垢な声が返ってくるのを確認したレイヴンは、
機材のキーボードから何かを打ち込み、最後にエンターキーとなるキーを押した。
しばらくすると、流れのなかったプールが規則的な波を起こしだす。
これはエリートがオブジェクトで戦闘を行う前に必ず行われる『調整』と言われる準備運動のようなものだ。
先に言ったとおり、今はオブジェクトの勝敗がそのままその軍の勝敗に関わる時代だ。
となると、間接的にエリートの精神状態なども勝敗を左右するため、
他のエリートもみなそれぞれ自分を最高の状態にするための『調整』を行っているのだ。
ちなみに、ケイミーの『調整』の内容は、
『波があるプールの中での二十分間のダイビング』だ。
一見バカバカしく感じてしまう内容だが、
これが彼女の精神状況を安定させるために必要なことなので仕方がない。
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