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『あの、つかぬことをお伺いしますが、きしどうないとさんの携帯ですよね?』
岸堂乃徒(きしどうないと)とは俺の名前だ。
要するに、メリーさんは俺の素性を知っている誰か、ということになる。
だがしかし、俺の知り合いにこんな可愛い声をした奴はいなかったはず。
ここはあえて、何も答えないことにした。
『す、すいません! 間違い電話でした! し、失礼しましたあ!!』
二回目の電話が切れた。
どうやら、間違って他の番号に掛けてしまったと、勘違いをしたらしい。
まぁ、勘違いさせるようなことをしたのは俺なのだが。
そうこう言っている間に、三回目の着信が来た。
『もしもし、きしどうないとさんの携帯ですか?』
お、今度は最初に確認を取ってきた。
「そうだけど?」
『私、メリーさん。今、あなたのお家の前にいるの』
心なしかメリーさんの声が、少し元気になった気がする。
「で、そこからどうするの? 俺が見ず知らずの女の子を、家に入れるとでも?」
『え? あの……えっと……私の話を聞いて下さ――――』
あ、電話が切れてしまった。
オヤユビという名の物体がデンゲンボタンを押すという障害だ。
さて……面倒だ、寝……。
来るとは思っていたが、やっぱり携帯に着信が入った。
『私、メ――――』
声を聞くなり、最速で電話を切ってやった。
だが、負けじと五回目の着信が入る。
根性あるなぁ……。
いやいや、関心してる場合じゃないだろ、俺。
とりあえず、メリーさんの話を聞かないと、朝までこんな調子が続きそうだったので、俺は観念してメリーさんの話を聞くことにした。
「俺、岸堂さん。お前の話を聞いてあげるから、なるべく早く寝かせてくれ」
ちょっと真似してみた。
『私、メリーさん。本当ですか? ありがとうございます!』
そして、メリーさんの声は喜びに満ちていた。
そんなに聞いてほしい話って、どんな話題だよ。
「んで、話とやらは?」
『実は、私、好きな人がいまして……』
へぇー……都市伝説が恋愛ねぇ……って、んなわけないだろ!!
早く寝たいの一心で、俺はこの凄まじいボケに、渾身のスルースキルを発動させた。
「……で?」
『その人はですね、とある会社のとある部署に居て、企画で一緒に仕事したときに、私がミスする度に優しくカバーしてくれたんですよね』
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