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「へぇー、それは良い奴だな」
他の奴のミスをカバーするなんて、そうそう出来ることでもない。
『はい! で、そのときのお礼を言いたいのですが、どうにも時間が合わなくて……』
で、見ず知らずの俺に恋愛相談を持ち掛けてきたわけね。
全く……、困った都市伝説だ。
「で、どうしたらいいか俺に聞きたいわけだ? だがな、メリーさん。生憎、俺はそういう相談に乗れるほどの、経験値は持ち合わせていないんだ」
彼女いない歴イコール年齢の俺には、彼女の助力になれるだけの経験と実績は存在しなかった。
そういうわけで、諦めて俺を寝かせてくれ、メリーさん。
『いえ、そういうわけではなくて……』
「じゃあ、どういうわけだ?」
何が言いたいのかさっぱりだ。
『あの……、どうか玄関のドアを開けてもらえませんか?』
「仕方ないな。お茶くらいは出してやるから、飲んだら帰れよ」
俺は、ベッドから起き上がり、寝室を出た。
調子に乗ってレオパレス二十一の貸家なんか借りてしまったが、一人で住むにはどうも広く感じる。
何処か別のアパートに引っ越そうかな。
そんなことを思いながら、廊下を進み、玄関の前に立った。
「鍵、開けたぞ」
『あの、お家に入れてもらう前にもう一つだけ……良いですか?』
まだ何かあるのか? ていうか、中に入ってからでも良いじゃねーかよ。
「何だよ、今更。入ってからでもよくないか?」
『駄目です!! 先に聞いておきたいんです』
ドアノブに手を掛けた瞬間、タイミング良く彼女の拒否の言葉が、ドアの向こうと携帯から聞こえてきた。
「あーめんどくせぇ。何だよ」
『あの、私が振られても、今まで通り接してくれますか?』
何処のどいつかも分からないって言うのに、何だその質問は……。
「ああ、振られたら慰めくらいはしてやってもいいぜ。これでいいだろ?」
俺は半ば強引に彼女の質問を終わらせ、ドアを開けた。
「君は……」
そこにはパンツスーツ姿の女の子が申し訳なさそうに立っていた。
肩口で切り揃えられたサラっとした髪に、左目の下にある泣きぼくろ。少しだけ高い鼻にアヒル口――その顔には確かに見覚えがある。
いつだったか、他社との合同企画のときに、その会社から派遣されたOLだった。
「どうも、ご無沙汰してました」
彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。
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