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「ご無沙汰はともかく、こんな時間に人ん家によく来れるね」
どういう神経してんだよ。
「あの……ごめんなさい。ほんとは午後の八時には家の前にいたんですが……その、何ていうか……勇気がなくて……」
八時!?
恋愛相談を持ち掛ける為に、六時間以上も前から家の前にいただと!?
「で、悩んでたらこんな時間になったわけだ?」
「……はい、すいません」
この時間になって、決行するって……もう一度言うが、どういう神経してんだよ、ほんと。
まぁ、女は恋する乙女フィルターが掛かると無敵に近いからな……、仕方がないと言えば仕方がない。
「とりあえず、立ち話もなんだし、中に入ったら?」
俺は来客用のスリッパを出す為に、彼女に背を向けた。
「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」
彼女に背後から抱きつかれてしまった。
「ちょ、何の冗談だよ」
俺は驚きのあまり彼女から逃げるように離れ、向き直る。
「あの……私……その、ごめんなさい」
彼女は目に涙を浮かべて、走り去ってしまった。
……ああ、もう、めんどくせぇ!!
俺は靴を履き、慌てて彼女の後を追う。
「待て! 待てって!!」
数十メートルを走ったところで、ようやく彼女に追いつくことが出来た。
何だあの速さは……あれがヒール履いてる女の走る速度かよ。
息を整える為に、俺は二、三回深呼吸をした。
彼女の方は……どうやら泣かせてしまったようだ。
「……あのさ、さっきのは急なことで驚いただけで、悪気はなかったんだ。ごめん」
とりあえず、泣き止んでくれ。
「うん……分かってるんだけど……分かってるんだけどね……」
嗚咽を交えながら、彼女がそう言う。
「後さ、あんなことされたら、惚れちまうだろ?」
あーあ、言っちまった。
死ぬほど恥ずかしい。
「……ふぇ?」
その言葉を聞いて、彼女が振り返った。
彼女の目はウサギのように赤くなり、涙で腫れていた。
「何だその顔、美人が台無しじゃねーか」
「うぅ……」
彼女は慌てて、スーツの袖でごしごしと、顔を拭う。
「あの……!!」
彼女は力いっぱい弱々しい声を絞り出す。
「私、メリーさん。あなたが……大好きです!」
俺はその声に応え、優しく彼女を抱きしめた。
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