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最初はただ他人の輪郭がぼやけて見えるだけだった。
単に自分の目が悪いのだと勘違いする程に、微妙すぎる認識だ。
次第に輪郭のブレは、人から湧き出ているもやの様な物に変化していった。
そうなれば僕がもやの正体に気づくのは時間の問題だ。
人が怒ったり悲しんだり喜んだりすると、そのもやの色は変化した。
怒鳴る父さんのもやは赤み掛かり、喚く母さんのもやは青っぽく。
そして父さんの横にいる美人のお姉さんのもやは、黄色に見えた。
その時僕は、家族に何が起きているのかより早く、このもやは人のココロが漏れて居るんだと理解した。
意識していなかったけれども、良く見れば僕の体からも、もやは出ている。
母さんに教えようとしたら、僕のもやは母さんの方へ少し伸びた。父さんを見れば父さんへも伸びる。
良く母さんは「心が繋がれば、ちゃんとお話が聞ける」と言っていた。
そう思い出した僕は、母さんに近づき、僕のもやを重ねながら「泣くのを止めて」と心から願った。
すると不思議な事に、半狂乱だった母さんはピタリと泣き喚くのを止め、冷静さを取り戻したのだ。
その光景を見て、父さんは呆気に取られていた。
あの唖然とした顔は忘れられない。
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