利害得失

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私はただ何も考えずに、武田と一君の間に身体を滑り込ませた。 その瞬間左肩に武田の刀が刺さる。 その衝撃で私は一君の肩に自分の右肩がぶつかった。 一君は慌てた様に振り向くと私の身体を自分の後ろに引き込もうと右手首掴んだ。 その瞬間、私の視界に飛び込んできたのは武田のニヤリと笑う顔だった。 私は咄嗟に身体を一君の方に向け、そのまま力一杯一君を突き飛ばした。 2人一緒に貫こうとしたのだろう。 武田の刀の柄を持つ手が背中に当たっている。 力一杯刺したのだ。 私はためらう事なく、自分の背中から差し込まれ、腹部に突き出た刀の刃を力一杯掴んだ。 刀を抜かれない様に。 そして武田が刀を抜く為に刀を強く引いたのと同時に、武田が握っていたはずの刀から抵抗する力が消えた。 まるでスローモーションの映像を見ている様に見える光景だった。 一君の後ろに立っていた武田を見つけてから今に至るまで、3秒程の出来事がまるで1分かけて見ている様な。 痛みはない。 ただあるのは傷口の熱さと身体から流れる血の生暖かい感触。 そして喉の奥から込み上げる鉄の味と沸き起こる吐き気。 体から熱が引いて行くのが分かる。
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