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芽衣実ちゃんを抱え、出来る限り全速で走った。
浅い呼吸を繰り返し、顔面蒼白になる彼女をただ助けたい一心で。
一君は一緒に走り出してから一言も言葉を発しない。
途中で『先に知らせに走る』と言い僕を追い抜いては走って行った。
屯所についた時には松本先生が迎えてくれた。
そのまま芽衣実ちゃんの作った診察室に連れて行った。
用意された台の上に身体を横向きに寝かした。
その時初めて自分の腕の感覚がなくなっている事に気が付いた。
一君はただ意識を失っている芽衣実ちゃんの手を握り閉めていた。
松本先生は芽衣実ちゃんの持っていたガーゼと呼ばれるものや、瓶に入った薬を使い始めた。
弟子の人が素早く左肩の傷を縫っている間に、松本先生は内臓をこれ以上傷付けない様にゆっくりと刀を抜いた。
台が真っ赤になってしまうほど血が流れ出る。
「斎藤君以外は部屋を出なさい。」
松本先生のその声に僕たちは身体を引きずる様に部屋を出た。
玄関から複数の足音が駆けてくる。
土方さん達が油小路から知らせを受けて帰ってきたんだ。
「総司!!芽衣実は!?」
額に玉の汗を浮かべた土方さんは僕の顔を見るなり胸ぐらを掴んで僕を問い詰めた。
「今、松本先生が・・・。」
そう言うと襖を開けようとした土方さん。
それを平助が止めた。
「一君以外部屋を出ろって!
入っちゃダメなんだって!!」
「なんでだ!!??」
「申し訳ありません。
お静かにお願いします。
傷の治療のため小澤さんには着物を脱いで頂いてますので。」
お湯の入った桶をもった弟子が部屋に入ろうと押し問答をしていた僕たちの前にやってきた。
それを聞いて僕たちは大人しく部屋の外で待つ事にした。
一体どれくらいの時間幹部連中でその場に何も出来る事もなく待っていただろうか?
「状況をおしえてくれねぇか?」
土方さんは必死で冷静になろうとしながら口を開いた。
僕は自分が見た全てを話した。
話を終えると土方さんはただ『そうか・・・』とだけ言った。
握り締めたこぶしからは血が滲んでいた。
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