涙とその後

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温かくて、冷たい。 水と……人の体温。 『ヒロ君。大丈夫。お母さんここに居るからね。熱なんてすぐになくなるよ。』 あぁ……遠い記憶の懐かしい感触。 母さんと同じ。 「かぁ…さ……」 「広樹…悪い。起こしたか?」 「ぁ……」 ぼやける視界。 ゆっくりと鮮明になっていく視界には、俺を見降ろしている真人さんの姿。 「ハァ…ハァ……ま、…さとさ…」 「どうした?広樹。恐い夢でも見たか?」 優しく頭を撫でてくれる真人さん。 そんな手の優しさに温かさに涙が自然と流れる。 悲しいから嬉しいからではなく、懐かしいから。 似ているんだ。 母さんの優しさと。 昔の記憶と。 俺は力の入らない頑張って腕を動かし、顔を覆う。 とめどなく流れる涙。 これは懐かしさだけじゃない。 寂しさもあったのだ。 「ヒロ」 「俺……」 俺は逃げて来れた。 逃げて来れたんだけど、逃げたくて逃げて来れたけど、やっぱり寂しい。 知らない初めての部屋。 真人さんの寝室だと思う。 それが寂しさを引きだしている。 嬉しいのに寂しい。  
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