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-side.広海-
最後に見た表情は、無だった。
口を微かに動かす、一瞬。
声に音になっていない言葉で…広樹は俺に向かって「さようなら」と言ったのだ。
俺は何処で間違えた。
どうしてこうなった。
どうして。
あの子はとてもいい子だった。
いや、良い子なのだ。
良くできた子で、最愛の妻…菜月とのたった一人の子供で、掛替えのない俺の宝だった。
菜月が死んでから。
菜月がこの世から居なくなってから俺と広樹だけになっても、母を亡くした幼い広樹はいつも俺の顔を見れば笑っていてくれた。
寂しいなんて言わないで、ただずっと笑っていてくれた。
『ヒロ、お父さんが居てくれればさみしくないよ。だから、泣かないで』
俺の方が弱くて泣いていた。
そんな俺をずっと励ましていてくれた子。
新しい出会い、新しい恋、新しい生活。
全て広樹は許してくれてた。
俺が京子と一緒になりたいと行った時は、にっこり笑って「いいよ」って言ってくれた。
俺はただ、広樹中心に回っていたんだ。
広樹を幸せにしてやりたくて、寂しい思いをして欲しくなくて。
俺は、広樹に母親を作ってやりたかった。
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