涙とその後

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「あら、堺さん。こんにちは」 「…こんにちは」 俺は会社で使うデータを家に忘れた事に気が付き、昼、家に一時帰宅した。 昼の時間に戻れない距離ではないからだ。 広樹が居なくなって数日経つ家は俺にとって空っぽになった箱の中のようだ。 それに、昼間は家に誰も居ないのがそれを一段と物語っている。 そして、今声を掛けてきたのはお隣の奥さんだ。 最近、余りあってなかった人。 「最近、ヒロくんみませんね。もしかして、ヒロくんって遠い学校に行かれてるのかしら?」 「え?」 「ヒロくん、昔から頭の良い子でしたしね」 知らない。 広樹は頭脳はそれほどまでに高かったか? 思いだせない。 だって、テストがあったとかなんて広樹から聞いた事ない。 可威と砂威のしか、見ていない。 「中学の頃、うちに料理を習いに来たんですよ」 ニコニコ笑う奥さんの話について行けない。 料理なんて知らない。 勉強だって。 知らない……。 いや、違う。 知らないんじゃない。 知ろうとしなかった。 広樹の事を俺は冷たく当たっていた。 いつからなんて覚えてない。 俺の記憶の広樹は……。 『もう…いい……』 泣いている……顔しかない。
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