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「どうしたんですか!?堺さん」
「……いえ…なんでもないです。すみません」
俺の顔を見て慌てる奥さんに断りを入れて俺は家を離れる。
なぜ、奥さんが慌てたのか。
それは、俺が涙を流していたからだ。
頬を伝う涙。
ただ、一粒だったけどそれは全ての想いが流れたように感じた。
俺は、
俺は、
「広樹を……」
殴った。
この手で、何も聞かずに。
何の理由も聞かずに。
いや、それ以前からも俺はちゃんと広樹を見たことなんてなかった。
『母さんの墓、どこにあるの?』
久々に話しかけてきた時も無視をした。
あの子にとって菜月との繋がりが、あそこしかないと感じているのは知っているのに。
俺はただ、守りたかっただけだったのに。
俺を気遣わないでいいって。
楽しく過ごしてくれと思って家族をまた作っただけだ。
全部、広樹の為だったはずなのに。
失うのが怖くて、壊れるのが怖くて……有利な方に立とうとしてしまった。
結果、俺は全てを失う。
大切だったあの子を。
母の写真を失ってどんなに辛かったかすら。
あの子は、思い出を捨てられてどんなに辛かったろう。
少しだけ覚えている幼い記憶の形を失って。
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