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たった一枚の自分の持っていた写真だけを大切にしていたことを知っていた。
でも、それさえも失っていたなんて知らない。
奪われたと思って、「返して」と可威に言ったって最後には京子が「捨てた」と言う。
怒りの中に悲しみがある広樹の目。
俺はどうしてそれを知ろうと、忘れようとしたんだろう。
広樹は、そんな酷い父親の俺でもあの時まではちゃんと目を見てくれていたのに。
話さなくなっても、広樹は俺を「父さん」と言ってくれたのに。
「堺さん、お帰りなさい。…どうか、したんですか?」
「いえ、なんでもな……」
――ガシャンッ
「あぁ!!ごめんなさい!先輩の写真立てがぁ」
後輩が荷物でふらつき俺の机にぶつかり上の物を落とす。
その中に写真立てがあり、それのわれた音だった。
「いや、怪我はないか?」
「は、はい」
今の、家族で写った写真。
「っ―――」
今まで気がつかなかった広樹の表情。
距離。
1人分を開けて立っている広樹の表情は無だった。
笑みも無く、作った訳でもなく。
俺はこれにさえ。
そして、その下の写真を見つける。
重なっていた写真。
古い写真。
そこには、幸せだった3人で写った
―――笑顔の写真があった。
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