涙とその後

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それから、夏休みは砂威兄が族を動かしヒロ兄を捜す事にした。 この区域を隅々まで。 でも、見つからない。 見つからないんだ。 バイト先を突き止めても、辞めたと言われるだけ。 それ以上は言わない。 個人情報だと。 脅しても、駄目な所ばっか。 「ヒロ兄。何処行ったんだよ」 狂いそうだ。 狂いそうで、辛くて。 いや、もう狂っているのか。 ヒロ兄に会ってから。 でも、狂ってるように思えないのは、俺より狂ってしまった砂威兄を側に見ているから。 安定剤を無くしたかのように、優しかった砂威兄はずっと冷徹な人間になっていた。 「ただいま」 「おかえり。可威」 探し続けたが居ない。 だから、一旦家に帰った。 「なに、してんだよ」 玄関で目にしたのは、最も嫌な光景だった。 母親がいたのは声で分かる。 母親の浮気現場ではない。 どうでもいい。 ただ、 「それ、ヒロ兄の私物だろ!何勝手に部屋から出してんだよ!!」 ヒロ兄の物をゴミ袋に詰めている光景だった。 俺は耐えられず、靴を履いたまま家に入り奪い取る。 「可威!?何して…」 「それはこっちの台詞だ!ヒロ兄は帰ってくる!居場所を取るな!!」 俺は母親を睨みつけ荷物を持ってヒロ兄の部屋へ向かう。 その時は靴を脱いでだ。 ゴミ袋に詰められていたのは、残っていた衣服。 それをタンスに戻して行く。 小物も元あった場所へ。 帰ってくる。 ヒロ兄は。 勝手なことをさせない。    
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