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あの頭を撫でてくれた手の温かさ大きさを数日たった今でも覚えている。
雑貨や食器、衣服を買ってもらったあの日。
不良と出くわして動揺する俺に温かく優しく接してくれた信頼できる大人の2人。
「ねぇ、真人さん。アルバムとかビデオとか見ていい?」
俺は今の所、安心できるのが2人の側しかないから、ひとりで出かけることがない。
家で過ごして、家の食料で何か作って。
それを心配されている事は気が付いているけど、夏休みという期間が終わるまで無理だと思うんだ。
長期の休みは何が起きるか分からないから。
「いいぞ。広樹、今日少し遅くなるかもしれないから先に飯食ってろ」
「え?飲み会?」
「違う、ちょっと用事があってな。でも、日はまたがないから」
「なら待ってる」
別に我慢できない訳じゃない。
ただ、今は"家族"で食べる食事が一番おいしいと感じるから。
ひとりは慣れているけど、この家は真人さんの家でずっと真人さんと食べていたし。
「無理はするなよ。腹減ったら構わず食え。いいな」
「はーい。行ってらっしゃい」
クシャッと俺の髪を撫で真人さんは「行ってきます」と言い、スーツ姿で家を出た。
シーンとする広い家の中。
最近、慣れてきたけど、まだ違和感があるのは仕方ない事かな。
普通3日もすれば慣れそうだけど、俺の場合、"自宅"と言うものに長時間いる事がなかったせいか違和感ばっか。
バイト先の事務所、スタッフルームばかりにいたから。
「あ、これだ」
ビデオ……と言っても、DVDに落とされている映像を再生させる。
画質は10年前なので悪いけど。
『映ってる?』
『あぁ、完璧。ヒロ、こっちにニコーってしてみ』
『ヒロ君、かわいい~』
忘れかけていた母さんの声が蘇る。
夢、思い出に思い出される声なんて本当の所、母さんだったかなんてうろ覚えと言う事だ。
でも、こうやって映像が残っているっていう事は嬉しい。
でも、映像で俺は父さんを出さない。
出ていないものしか選ばない。
無意識、わざと。
分からない。
でも、全ての選んだ映像を再生しても、母さんと真人さんと俺の遊んでいる時の映像しか見ない。
別に真人さんが隠している訳でもないはずなのに、絶対に触れないDVDがあるのは確かなんだ。
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