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よくわからないが、試合が始まるようだった。
その人垣の隅っこに辿り着いて顔を覗かせると、開始線には凛とした佇まいの少女がいた。借り物と思しき道着と名前のない防具を纏った少女は、おそらく梨花だ。その彼女は、あろうことか竹刀の剣先(けんせん)を向かいの山本に向けている。
「ちょ、何やってるんですか梨花っ」
思わず叫ぶ狭霧だが、その声は軋む身体のせいで普段より弱く、外野のざわめきに掻き消された。
しかし直後発せられた梨花の声は、驚くほど凛と響く。
「あたしが勝ったら、お前はソッコー狭霧の子分だ!」
無茶苦茶だ。狭霧自身は頭を抱えた。
いりません、子分なんていりません。
しかし、苦悩する狭霧を置いて話は進む。
「負けた時はどーすんですかぁ?」
面倒臭そうに問う山本は、不躾(ぶしつけ)なまでにじーっと梨花の胸の辺りを見ている。
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