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放課後の廊下を、三神梨花(みかみりか)はズカズカと歩いていた。鞄を手にした彼女は今、目的の人物がよく利用する空き教室を目指している。
季節は夏。鬱陶しい熱気を払うようにドアを開けると、やはりそこに彼はいた。
肩につく真っ直ぐな黒髪と、男子にしては華奢な体躯。この暑いのに制服の上着まで着ていた。ともすれば女子に見えそうな中性的な彼の顔は、今隅っこの席でノートと教科書を見下ろしている。
「捜したぞ狭霧(さぎり)。一緒に帰ろう」
「え、梨花?」
呼ばれた狭霧は、驚いたようにノートを閉じた。梨花はおうと頷いて彼に近づく。
いつも思うのだが、狭霧って、男なのか女なのかわかりにくい名前だ。事実、十五年の人生の中で、狭霧は何度も性別を間違われ、「ちゃん」づけで呼ばれたこともある。顔も名前も中性的だからなおさらだ。
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