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「死にかけることに慣れてるとか、自分が死ぬ方が早いとか。もうあたしの前で二度と言うな」
「――――」
生まれたときから死にかけて。今までに、何度も生死の境を彷徨って。
だから彼は自覚していた。自分は、長く生きられないだろうと。
そして、それは周りにも伝わっていた。梨花は幼なじみだから、特に。
ああそうか、と、狭霧はようやく理解する。
「ごめん、なさい」
「言っていいことと、悪いことの区別くらいつけろ」
梨花は、狭霧を正面から見据えてきた。その瞳が、傷ついたように揺れている。
狭霧が自分の命を軽んじるたびに、彼女は傷ついていたようだ。大袈裟だと、笑い飛ばせない根拠がある。狭霧はそれほどに脆いから。
しかし当の狭霧は、自分がいつ死んでも構わないと思っていた。死にたがりというわけではないけれど、自分の生に関しては冷めた諦観(ていかん)すらある。だから、彼は生きながら死んでいた。生きることをやめていた。
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