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対する梨花は、十八年間一度も「くん」づけで呼ばれたことはない。名前って大事だよなとしみじみ思う。
ひとりで勝手にうんうんと頷いてから、おや、と梨花は首を傾げた。
狭霧が使っている机の上に、数学の教科書が一冊。それはいいが、その横にノートが三冊も積み重なっている。いずれも背表紙を上に向けられて正面は伏せられていたが、それでも梨花にはなんとなくわかった。それが狭霧のものではないということが。
実は狭霧、ろくでもないクラスメイトに命令されて、彼らのグループの宿題をひとりでやらされていたことがある。
そういうのはもうやめろと、先日忠告したはずだったが。
梨花の視線が鋭くなる。それに怯えたように、狭霧はすべてのノートを隠そうとした。梨花は持ち前の瞬発力で、その前に三冊をかっさらう。
「あ、ちょっと」
慌てた様子で、狭霧は必死に手を伸ばした。
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