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「ありがとう。梨花」
君がいるから生きられる。
「もう、梨花を心配させるようなことは言いませんから」
にこやかに告げる少年に、梨花はそっと息をついた。
彼は、誰よりも弱くて、誰よりも優しくて。誰よりも、毅(つよ)いのだ。
「仕方ないな」
そう言って、梨花は苦笑に似た笑みを浮かべる。
狭霧の目が、これまでと違った。つい昨日の昼までは、いつ儚くなってもおかしくないような、危うい目をしていたのに。それが今は、しっかりと前を向いている。それが嬉しかったから、もういいやと思えた。
心地よい風が吹いてきて、ふたりのやわらかい髪を撫でる。
足りなかったのは、生きたいという意志。
これまでの狭霧はどうせ自分はと心のどこかで諦めて、生きることをやめていた。常に、生よりも死を見据えてきたのだ。
その結果ただでさえ弱い身体はそちら側に引きずられ、何度も何度も死にかけた。病は気からとは、よく言ったものだ。身体が弱いのは確かだが、当人に生きる意志がまるでなかったのも、きっと死にかけまくった原因だろう。
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