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「返してくださいよ」
ノートを取り戻そうと立ち上がった狭霧に、梨花は氷の視線を投げかける。その冷たさに息を呑んで、狭霧は椅子に座り直した。
「安曇(あずみ)狭霧。お前はいつから山本とか渡辺とか小川なんて名前になったんだ?」
「……偽名です」
「ふぅん偽名かぁ。って、この前よりはギャグのセンス上がったけど、それで済むと思ってる?」
「……」
狭霧は答えない。唇を噛んで、無言でうつむいている。
彼は生まれつき身体が弱くて成長が遅い。背が小さいと馬鹿にされて、つまらないいじめに遭うことも少なくなかった。おまけに性格は優しくてお人好しで、頼まれたら嫌とは言えないタイプだ。そして極めつけに、ガタガタの身体の代わりに滅茶苦茶頭がいい。
このノートの持ち主たちにしてみれば、狭霧は恰好のカモだったことだろう。
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