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「狭霧。嫌なことは嫌だって言わないと、いつまでも本当に必要とされる人間にはなれないぞ」
淡々と、けれど憐れむような目で、梨花は幼なじみを見下ろした。内気な彼が精一杯誰かの役に立ちたいと思って努力して、役に立っているつもりでその実いいように使われているだけ、という悲しい事態は、今に始まったことではない。
「気づいてんだろ。それは必要とされてるんじゃない。利用されてるだけだって」
「わかってますよ!」
珍しく感情を爆発させて、狭霧は椅子から立ち上がる。梨花は軽く目を見張った。狭霧が声を荒げたことは、長い付き合いの中でも数えるほどしかなかったのだ。
「わかってますよ。けど……っ、……」
「狭霧?」
ふいに狭霧は腹部を押さえ、痛そうな顔をした。
まさか、と、梨花は嫌な予感を覚える。前にもこういうことがあったから。
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