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列になって階段を上り式場をめざしていると、 テーブルにハンカチを忘れた事に気づく。 メンドクサイな…でも、お気に入りだしな… クイッと振り向いて急ぎ足で戻ろうとしたときに、 いつもより高いヒールが階段の淵に引っかかり、 転びそうになった私が縋りついた手の先が、 若草色の塊だと気づいたのは、 何とか自分自身がその場に…とどまることが出来た瞬間だった。 スローモーションのように、 私が掴んだ分、体のバランスを崩した課長の奥さんが、 あと数歩で階段を上りきった位置から、 階段の上から3分の一辺りに位置した 踊り場までの数段を落下していったのが目の端に映り、 後ろで物音がして振り返った数歩先の課長が 声も出せず、びっくりした顔をして振り向いていたのが見えて、 落ちた先には、これから登ろうとした成瀬さんが、 「あぶない!」って駆け寄ろうとしていた姿が、映画のワンシーンみたいだった。
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