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もしこれが、逆だったら、私だって自分の彼氏に近付かれるのは嫌だ。
だから、勝手なのはわかる。
奈多良さんが怒るのもわかる。
だけど、ここで諦めたくない。
俊くんには私のことを思い出してもらわないといけない。
そして、私との約束を思い出してもらわないといけない。
10年間待っていたんだから。
その約束が、叶うのかどうかは別にして。
私にとって、大切なあの昔の俊くんとの記憶をなかったことにしたくない。
「……っ。知らないわよ。どうなっても。」
「私は、あなたに負けたくない。」
「今の俊のことは、あたしの方がよく知ってる!」
奈多良さんが、私よりも記憶を無くしてからの俊くんをよく知っていたとしても、私は今から知っていくだけ。
昔の俊くんを知っているのは私の方。
怒りに奮える奈多良さんは、私を睨み付けて言った。
「ほんとに、どうなっても知らないからね! 邪魔なあんたなんか潰してやる!」
そう言って、奈多良さんは背を向けてツカツカと歩いていってしまった。
その背中を見て思う。
あの人が、俊くんの恋人なんて信じたくないけれど、それでも私は負けたくない。
せっかく10年ぶりに会えた人に、思い出してもらわないなんて、有り得ないんだから。
こんなに勢いよかった私だけど、いざ奈多良さんがいなくなると、ホッとしてその場に座り込んだ。
あんな言い合い、久しぶりにした。
「怖かったぁ~……」
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