『序章』

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 今は夏だ。そう言い聞かせたくなるような、寒い日だった。   男は近くのスーパーで買い物を済ませ帰るところだった。家までは歩いて数分の距離、道に迷うことも当然無い。しかし今日は変だった。家に着くまでに数十分も掛かってしまった。        家に着くと、玄関の前に友人の車が停まっていた。男が出掛ける前に電話があり、すぐに帰ると伝えてあったのだ。車まで近づくと違和感に気付いた。エンジンは掛かっていたが、誰も乗っていなかった。             男の家の周りは、夜になると人通りが無くなり静けさが増す。元々あまり人は住んでいないが、それでも昼間は人通りは多い方だ。だから夜に人を探すのはとても簡単だった。友人はすぐに見つかった。車の後ろでぐったりと倒れていた。男は抱き起こし様子をみた。               友人は病院に運ばれたが、二度と喋ることはなかった。男は警察から事情を聞かれたが、何も分かる訳が無かった。唯一分かったのは友人の暗い過去だった。    ひとつ思い出した。買い物から帰る途中に、若い男とすれ違っていた。彼が言った言葉、    「『夢』は頂きました」
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