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テーブルの前に携帯電話片手に執筆を続ける、金髪の和服姿の作者の耳元に届く、チャイム。
誰かが来たので、玄関まで来て扉を開けると、思わぬ来客に口を開く。
「ん? ロカじゃないか?」
そこに立つのは黒髪が長くも短くもない、優しい顔つきの少年の姿が。白と青いの袴姿だが、これは陰陽師の仕事がある場合に着用する正装。つまりは、仕事に行くのか帰り道なのか。
気弱そうだが、これでも立派な学生陰陽師である斉賀呂瓜。彼が一人でこの部屋を訪れるなんてまず無い。
「こんにちは。あの……桜花さんから預かり物があって届けに来ました」
「ん? 桜花から? ……まあ、あがってよ」
そう言って、ロカを部屋に招くきソファーへ座らせる。取り合えず、お茶を用意すれば目の前に置いて本題へ。
ロカは一つの封筒を持ってきたのだ。ちなみにロカも内容は聞かされず、大事な書類だからロカ君宜しくと笑顔で送り出された。
ロカは桜花の笑顔に弱く、NOなんて基本的に選択肢には無い。
不思議に思いつつ、受け取った封筒をガサツに開ければ、数枚の用紙が入っており、これが悪夢の片道切符。
「――なっ?! ――なんだよ~これっっ?!」
思わず声を上げれば、ロカもビクッと身体を震わせる。中性的声は高くなっていたのだ。
「一体どうしたんですか……――?!」
ロカもその内容に更にビクッと。
封筒の中身は、請求書であった。桜花が魔法で召喚した食材、酒代に関する請求書が――とてつもない金額で作者の元へ。
「……ま、万枚分の金額?! パチスロ何回行けると思ってるの……あ、あり得ない……」
目が泳ぎ、どうにもならない現実に何故かロカを見れば……
「ぼ、僕を見ても、な、何も解決になりませんよ……あっ! 用事ありましたのでこれにて失礼します」
ロカは見るからにその場に堪えきれず、逃げ出して帰って行く。楽しい宴の代償が、こんな形で帰って来た作者は愕然としながらソファーに座れば、大きな溜め息を一つ残して、ロカに出したお茶を自分で飲む。
「……はぁ、味がしない」
何より衝撃が大きく、苦味すら感じれなかったのであった。
おしまい
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