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家に着いて、インターホンを押す。
ガチャリ
と、出てきたのは美零の母親。
「……あ」
「こんにちは…あの……柳瀬は?」
「………」
ひどくつらそうな顔だ。
俺は意味も分からず答えを待った。
その答えは、簡単で分かりやすくて。
俺の意識を失わせるにはもってこいだった。
嘘、嘘、嘘だ!!
俺は無意識に走っていた。
美零の母親に訊いた場所に。
『…美零ね…入院したの』
おい美零。
今日はエイプリルフールじゃねぇんだぞ。
分かりやすい嘘つくなよ。
だってお前…言ってたじゃねぇか。
"外に出られる"って…!!
足が動く。
美零が、わがままな女王様並みのドヤ顔で
『騙されたか、レンレン』
って言ってくれるのを望んで。
…………やめろ
こんな考えは、もう諦めてるのと同じじゃないか。
大丈夫。
アイツはこれくらい手の込んだイタズラをやる奴だ。
そう…思っていたのに。
「すみません。柳瀬美零っていません………よね?」
それは、質問より願いに近かった。
「いますよ。……え…と、302号室ですね」
親戚な看護婦さんに感謝の言葉も言えず、302号室を探す。
扉まで後数㎝。
俺は往生際悪く、同姓同名の別人だと自分に言い聞かせた。
ほんの何秒かだけだったけど。
「れん…き?」
真剣な時や大事な時だけ俺をちゃんと名前で呼ぶ。
やめてくれよ、みーちゃん。
お前がそんな顔すると、嫌でもお前に何かあったってわかっちまうだろうが。
「……外…出るんじゃなかったのかよ」
「レンレン……、あたしにとっての外はね《家の外》なんだよ」
満足気に笑う。
もう、
そんな顔したら、
俺だって、
笑うしかなくなるだろ?
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