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「…恋…貴には…知られたくなかった……な」
途切れ途切れで言葉を吐く美零を直視できなかった。
ゆっくり俺の手に伸ばされた美零の指。
それが何の意味も無しに動いているのか、何かを伝えたいのか分からない。
ただ分かるのは、美零の指がひどく痩せ細っていること。
何も言えない俺に美零は苦笑した。
ピッ ピッ ピッ
規則正しく流れる心拍数。
悲しいくらいはっきりとした心拍数。
それが美零の生きてる証。
こんなふうに美零の声と心臓の音に耳を澄ませて過ごせたらなぁ…なんて。
あぁ。
美零が嫌なんだっけ。
俺が美零のために生きるのは。
でも。
隠されてたことがショックで。
気付けなかったことが虚しくて。
悲しくて。
どうしようもない。
本当、俺達って空回りだよね。
「…れ…んき」
「っ、何?」
「……あ…たしね…恋貴の名前…好き…だよ…」
声が途切れ途切れだ。
素人の俺が見ても無理してるって分かる。
でも……美零は話すことを止めない。
「…と…うとい…恋…雫の…石……きれい…な名前……だよね…」
お前だって………っ。
言いたいはずなのに口からは息が漏れるだけ。
ピッ ピッ
心拍数が、少なくなってきた。
「…やめろ…っ。美零」
「……好き…恋貴…好き……っ。ごめん…言っちゃ……だ、め…だった……のに…」
泣きそう……ではなく泣いていた。
ピッ ピッ
間隔が短くなっていく。
「…恋貴…縛りたく……なかった………のにっ」
伸ばされた手を掴んで、優しく握り締める。
「…れん…き」
「美零、美零、美零、美零、美零……っ」
何度も呼ぶ。
そうしたら美零が元気に笑ってくれる気がして。
でも。現実はそんなに甘くない。
ピーーーーーーッ
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