0.闇夜の森で

5/6
前へ
/41ページ
次へ
  これはチャンスだ、今なら逃げられる。 着物の少女は、そう思った。 注意が自分から逸れた瞬間に、ゆっくり立つ。 体力は僅かながら回復している、いける。 着物とは思えない程の速さで、走りだした。 まさしく、脱兎の如く、走る。 「ああ!待て!!」 遅れて振り向くが、もう遠くに行ってしまった。 静止の声は虚しく消えていく。 するとまた、がさり、と音が聞こえた。 再び、今度は冷静に茂みを見ると、イレギュラーの正体が判明した。 茂みから出て来た身長2メートル程ある長身痩躯の男。 だがその雰囲気は、人間のそれではない。 暗闇のなか、目だけが光を放っていた。 「何なんですかアンタは!」 ぎゅうっと両の手を握り、男との間合いを詰める様に走る。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加