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―――浪士組屯所、夕方
「ふぁ~…」
「……やっと、起きたのか」
欠伸をしながら目を擦りキョロキョロと辺りを見渡す少女の横に、少し不機嫌そうな表情の青年が座っていた。
「ここ……どこ…?」
「ここは浪士組の屯所だよ……
てか、お前がここに飛ばしたんだろうが」
寝ぼけている少女に対し青年は呆れた口調でそう言う
「……そうだっけ?」
「違うのか…?」
「分からない~
そいえば、名前なんて言うの~?」
瑠月の、のんびりな回答に奏はうなだれたあと、ゆっくりと自分の名前を息と一緒に吐き出した。
「奏だ……」
「奏……、下の名前は?」
「……ない」
そう言ってそっぽを向くとむぅとしたように怒ったかのように自分の顔を近づかせた。
「な、なんだよ?」
「本当にないの…?」
瑠月の真っすぐな言葉に奏は渋ったかのような表情をしたあと、ため息混じりで口を開く
「何でそんな事気にするんだよ…?」
「だって、ずーっと一人だったから……知りたいんだもん」
瑠月の言葉に奏では言葉を詰まらせた。
元々、幽霊であった瑠月は奏の時代になるまでその姿は変わらず、両親にも見えぬまま独りぼっちであった。
奏もまた独りぼっちであったため、瑠月の気持ちは分からなくもなかったらしく重たく口を開いた。
「……はずきだ、漢字は朱色の朱に華麗の華で朱華<ハズキ>
つではなくすに点々だからな」
ぶっきらぼうに下の名前を言うと瑠月はニッコリと笑った。
「じゃ、さくらははずきって呼ぶね」
「……もう、好きにしろ」
瑠月に負けたかのようにため息混じりでそう呟いた。
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