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「お客さん、この先崖ですよ?何しに行くんです?」
「あの崖のそばに親戚の家があるのよ。」
ガタガタと揺れるタクシーの中。道路はひび割れが激しく、砂利道となんら変わりはないような道だった。
「そりゃ良かった。いえね、ここで自殺しようとする人が後を絶えないんですわ。」
「そう、大変な事ね…」
そして、舗装された道が終わりを告げた。
「じゃあ、田中さんに宜しく!」
「えぇ…伝えておくわ。」
田中さん…あの家に住んでる人だろう…口から出任せに言った最期の嘘。
「フフッ、最期の嘘はつまらなかったわね。」
家があるのは知っていた。何回も下見に来ていたからだ。
だが、田中という名前は知らなかった。
気づけば、目の前に道は無かった。
「やっと人生に終わりを告げれるのね。お兄様、私ももうすぐそちらに参ります。」
少女の家庭はかなり裕福だった。その分、教育が厳しく辛い日々だった。
両親は10年前に航空事故で他界。
両親の私に対する態度はかなり冷たく、この2人のために涙は流れなかった。
その後は3年前まで兄と2人で暮らしていた。
しかし、突然兄がこの世を去った。飲酒運転のトラックから私を守り、命を落とした。
たった1人の肉親、しかも私を一番愛してくれた兄を失った悲しみは計り知れないものだった。
3年間の時間は悲しみを癒やすどころか傷を広げるだけだった。
「さぁ、終わりにしましょうか。」
地面の無い場所へ一歩を踏み出す事は恐ろしく簡単だった。
落下しながら少女は思った。
「あぁ、やっと終わるのね…」
そして、意識はテレビを消すように途切れた。
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