観覧車から見える景色

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俺がポケットから取り出したのは、個包装されたキャンディだった。 彼女ははっとしたように目を見開く。 俺は握った両手を彼女に差し出す。 「どっちに入ってると思う?」 彼女は震える指先で俺の右手を指さした。 開いた手の方には何も入っていない。 「じゃあ……こっち?」 彼女に言われて左手も開くと、そちらにも何も入っていない。 タネあかしすると簡単な手品で、服の袖にキャンディを隠しただけなのだけど。 俺は隠していたキャンディをつまみあげ、お嬢様に差し出す。 「悲しいこともあるかもしれないけど。 でも楽しいことだって、きっとすぐ近くに隠れてるかもしれないから。 だから泣かないで、……って。 言ったんだっけ、あの時」 彼女は泣きそうな顔で、まるで宝物を扱うようにキャンディを受け取った。 .
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