観覧車から見える景色

42/43
前へ
/182ページ
次へ
俺は受話器ごしに聞こえる麗華さんの声を思い出す。 麗華さんは今は父親の会社で仕事を手伝っているらしいが、家に帰って少しでも時間があると俺に電話をくれる。 僅かな時間を惜しむように、その日あった楽しかったことや腹がたったことを教えてくれる、せわしない話し声。 そんな時いつも俺は目を伏せて、彼女の声に心を沈める。 そして彼女と会話するたった数分の時間が、何より楽しみで何よりかけがえのないものだと実感する。 『司、ちゃんと聞いてますの?』 『えぇ、聞いてますよ』 日を重ねれば重ねるごとに、彼女を思う気持ちは募っていく。 『……司』 強気な彼女は、時折弱々しい声でささやく。 『わたくし、きっとすぐにあなたの所に帰ります。 だから……』 『えぇ』 .
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7596人が本棚に入れています
本棚に追加